強引男子にご用心!

ジャケットからスマホを取り出し、何やら検索中の磯村さん。

考慮はしてくれる……らしい。

「あいにく近所だとスペースある店は少ないが……中華料理の店だとまぁまぁゆったりしてるかな」

「…………磯村さ……?」

「ん?」

「私たち、付き合うの?」


磯村さんは少しだけ眉を上げ、それから本当に楽しそうに目を細める。


「おー……話早いな」

え。

何だか違った?

違ったぽいよ?
間違った事をきいたらしいよ?


「訂正します!」

「しねぇよ」

「します! だいたい私は磯村さんの事をなにも知らないもの! そんな人とは付き合えません!」

「他人の事を全部知ってたら、ストーカーだろうが」

「似たようなもんじゃないの、行く先々にいるくせに。今日なんてマンション前にいたじゃない」

「あー……。あれは気を付けた方がいいな。総務部の奴であんたの事、逐一報告してくる女がいる」

「は……?」

「テキパキ仕事して、ツンツンしてるあんたに憧れてるんだと」

「…………普通に仕事しているだけなんだけど」

顔をしかめたら、気づけばとても自然に、磯村さんがソファーの肘掛け部分に座っていることに気がついた。

慌てて離れる。


「あんたの悪いところは、頭で考える所だよな。気づかなけりゃ気づかないくせに」

「わ、悪い?」

「そうだな。まぁ、そういうもんなんだろ?」

「……すみません?」


何故か無言になって少し困った。

困って、考えて、ビシッと指差した。


「会社でいちゃつくような人とは付き合えません!」

「キスしたことは謝んねぇよ?」


ん?

いやいやいや、そうじゃなくて。


「私じゃなくて! 私以外の人と、会社でいちゃいちゃするような人って事です!」

「ああ……今度から来たら拒否する。それでいいか?」


来たら拒否する?


「基本的に拒まなかったしな」

しれっと言う磯村さんをまじまじと眺めた。

……だめだ、この人、基本的にと言えば基本的に、人の話を聞かない人らしい。

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