強引男子にご用心!
「え? なに考えてって、そんなに深く考えてねぇよ」
資料保管室で油を売っていた磯村さんを見つけてブツブツ言ったら、あっけらかんとした答えが返ってきた。
「まぁ、そもそも噂になってんだから気にすんなよ」
「気にします。また磯村さんのファンに囲まれたらどうしてくれます」
「彼女だって言えばいいだろ」
「違います!」
「えー」
えー……じゃなくて、
「ちゃんとお断りしました!」
「してねぇよ」
「しました!」
「あんたは困るって言っただけ」
……そうだけど。
「だからって、お付きあいすることにはならないでしょう」
「いや。あんたは付き合うのか聞いてきて、俺は話が早いなって承諾した」
「訂正しました!」
「聞いてない事にした」
いやいやいや、聞いてたよね?
しっかり聞いてたよね、貴方。
何だかなぁ、もう……
肩を落とすと、主任に頼まれていた資料を捜し始める。
磯村さんは明らかにサボりだけど、私は仕事中だからね。
「……あんたもつくづく無防備だな」
「何がですか」
「この状況で男に背を向けるか?」
「会社で絡み付く人は磯村さんくらいです」
「おー……それは、俺に絡み付けと言ってるのか?」
「私は絡み付くとは言ってません」
振り返り様に見つけた資料のファイルで防御すると、磯村さんはニヤリと笑った。
「学習したな」
「さすがにしますよ」
「相変わらず、その格好はギャグだよな~」
いつも通りの捜し物スタイルです。
ゴーグルにマスクに三角巾。
もちろん手袋ですとも。
「この格好は大丈夫らしいですから」
「いや? 剥げばいいだけだろ」
……あまり、会話しない方がいいかもしれない。
遠慮……を、以前はしていたらしい磯村さんより、今の磯村さんはタチが悪い。
「人の事をからかって面白いですか」
磯村さんの視線が私の頭から爪先に向かい、それから微かに頷く。
「正直、面白い」
「………………」