強引男子にご用心!
「一人で生きていこうと思っていたのに」
「無理だろ。人間なんて、一人で生きてるようで生きてないもんだぞ?」
顔を上げると、磯村さんは壁に寄りかかりながら、両手をポケットに入れている。
それを眺めながら、また床を見た。
「……そうかしら」
「そうだろう。あんた、ちゃんと社会の一員してるじゃねぇか」
「出来てるかしら……」
「……ま、そんなもんだろ。色々隠し事もひっくるめて、生きていく処世術ってやつだし」
「……自信満々ねぇ」
溜め息をついて立ち上がる。
「……で、今夜忙しいわけ?」
「今夜、何かあるの?」
「何もない。残業も無さそうだから、誘っただけ」
眼鏡をかけながら磯村さんを見て、それから歩きだす。
「ご飯?」
「そう。会社の近くによさそうな店見つけた」
「私は自転車だけれど」
「飲むなら駄目だな。あんた終電は論外だろうし」
「ごめんなさい」
「気にすることじゃねぇよ。今度は宅飲みしようか」
そんな感じで、帰りに待ち合わせわをして別れた。
なんて言うか……
これって、一生懸命合わせてくれようとしてるよね?
磯村さんなりに、私に合わせて、選んでくれてるみたい……
申し訳ないなぁ。
申し訳ないけれど、ありがとう。
ありがとうと、思いつつも……やっぱりごめんなさい。
私は、どうすればいいんだろう。
そんなことを考えながらも仕事はこなしていて。
習性になっているんだろうな。
ぼんやりしながらロッカーで着替えて、社員入り口にいる磯村さんを見つけた。