強引男子にご用心!

「遅い」

「終業間近はロッカールームが混むの」

「あー……なるほどな。事務方は着替えるからなぁ」

そんな話をしていたら、

「あ。磯村さん」

声のした方を二人で振り向くと、磯村さんの知り合いらしい人がこちらを見ていた。


「これから飲みに行くんですけど、一緒にいきませんか?」

声をかけてきたのは企画室の山本さんだ。

男の人が数人と、女の人が数人。


影に隠れた私と、山本さんを交互に見て、磯村さんはニッコリ微笑む。


「悪い。これからデート」

「え。あれ……伊原さんに断られたんじゃない……の?」

隠れていたのに、山本さんと目があって、目を丸くされた。


「あーそう。そうなんだぁ。そういうことぉー?」

語尾伸ばしまくりで納得されて、女子社員からは冷たい視線が飛んでくる。

はい。
まぁ、断ったのだけが噂になってますよね。

それなのに、なんで?とか、まぁ、思っちゃいますよね?


「また今度誘って」

「絶対、二度と誘わないよ!」

磯村さんは笑いながら出口を指すから、そそくさとその場を後にする。


「あれは噂になるだろうな」

ニヤニヤ笑う磯村さんを横目で見て、眉をしかめる。

「他人事のように」

「噂なんて他人事だもんよ。気にしてたらキリねぇだろ」

それは男の見解だと思うのね。

「だいたい、俺らより噂になりやすい奴がいるし」

「……そうなの?」

「秘書課の葛西って知らねぇか?」

「……知らないわけがないです」

眉目秀麗、常に礼儀正しく、レディファーストを忘れない、我が社の代表取締役社長令息。

秘書課と総務部で連携するのはいつもの事で、何回か話したことはある。

ちょっと冷たい感じの人だよね。

「あいつが女物のハンカチを拾ったとかで、3ヶ月くらい噂んなってた」

それは凄い。

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