強引男子にご用心!

だから、駄目だって言ったじゃない。


言った……けれども。


でも、そんな事を言ったら怒られる……と言うより、意地悪されるから言わない。


黙って手を握られるままにしていたら、


「顔、触るぞ」

「え……」

むにっと両頬をつままれた。


「い……いひゃい」

「次、乗るぞ。次」

「わ、わかっら。わかっらから」

磯村さんは鼻をならして頬をはなしてくれた。


なんなのよ。


「今日くらい意地悪しなくてもいいじゃない」

「人聞き悪い。いつもイジメてるわけじゃねぇよ。てか、今日くらいってのはなんだよ」

「誕生日くらい、いいじゃないって事ですよ」

「………………」


磯村さんは何故か笑顔で固まり、しばらく黙り込む。


……どうしたのかしら。

何か変な事を言ったかしら。

黙っているから、私も黙ってココアを飲む。

そうしたら、磯村さんは唐突に不機嫌になった。


「あんたなぁ。そんな事は言わねぇと解らないだろうが!」

「え?」

「え、じゃねぇ! 女なら誕生日とかなんだとか、言ってくるだろうが!」

「言わないわよ。祝うような年齢でもないんだし」

「言え!」

……なんで怒るかなぁ。

私はただ、誕生日くらいは心穏やかに過ごしたいだけなんだけど。

ダメなの?

「あー……。怒ってる訳じゃねぇ。イラついただけだ」

「同じじゃないの」

「違う。まぁ……」

ちらっとホームに入ってきた電車に気がつき、磯村さんは肩を落とした。

「帰るか」

「はい」

立ち上がって、空いている電車に乗った。


とりあえず乗って、不機嫌磯村さんの隣に立つ。

触れるか触れないかの立ち位置は、私が最大限近づける距離。

それに気がついて、磯村さんは諦めたように笑ってから溜め息をついた。


「気にするなよ。ただな、急に言われても対応できねぇだろうが」

「や。何かしてもらおうとか思ってないし……気持ちだけで」

「解ってねぇなぁ。俺があんた構いたいんだから、諦めろって言っただろうが」

そりゃ言われたけどもさ。

誕生日は確かに祝い事かもしれないけれど、家族くらいしか祝ってもらった事ないし。

もう29歳だし、いい大人が浮かれるのもいかがなものかと思うし。
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