強引男子にご用心!

「飯でも食って帰るか?」

「うーん……」

会社が終わって、また人がたくさんいる所に行くのは気が進まないなぁ。

「乗り気じゃねぇなぁ。ゆっくり俺の家でもいいが、なんもねぇぞ?」

「……お祝い、してくれるの?」

「コンビニケーキでもいいなら、祝ってやる」

「じゃ。何か作る」

「誕生日なのにか?」

「誕生日だからです。一番落ち着けるもの」

「俺の部屋が?」

「…………」


そうね。
付き合いはじめてから、気がつけば磯村さんの部屋で過ごすことが増えた。

間取りが逆転してるくらいで、シンプルな部屋だから、たまに休みの日に掃除したりして過ごしたり……。

だけれど、磯村さんをうちに招待したことはないな。

いつも磯村さんの部屋にお邪魔する感じで……。


「うちに……来ますか?」

「おー……」


磯村さんは驚いたように小さく呟いて、それから小さく笑った。


「随分、いきなり進歩したんじゃねぇ?」

「貴方、放っておくと、お構い無しにぐいぐい来るじゃない」

「遠慮してたら進まねぇから」


そうですね。


私はお世辞にも積極的ではないし、どちらかと言えば消極的でうちにこもりやすいし。

こもっていても、磯村さんならぶち破って来そうだけどね~?

何だかそれを拒否せずに、受け入れちゃってる私がいたりして。

何だか変なの。


……これが、惚れた弱みってやつなのかしら。

それなら不思議としっくりくると言うか。

何だか……


「何だよ。急に笑いだして。気味悪ぃな」

ひど……っ!

ちょっとほんわりしてたのに失礼だ!


睨んだら睨み返されて、しばらく黙ったままでいると、珍しく磯村さんが先に折れた。


「何考えてたか言ってみろや」

そんな口調で聞いてくる人には言わない。

「言え」

「いや」

「華? 言わないと触りまくるぞ」

「嫌よ。言ったら調子に乗るくせに」

「ん?」

「え?」

「そうかそうか。俺が調子に乗りそうな事を考えてたのか。是非とも聞きたいな」

ニヤニヤ笑う磯村さんを見上げて、それからそっぽを向いた。

この人は侮れないよね。

知ってたけど。

知っているけれどね。

女の挙げ足とる男はどうなの?


「まぁ、そういう所が華だよな」

「……何がです」

「たまには意思表示してくれても、損はねぇんだけど」

ぶつぶつ言われて、視線を戻す。

だって、ねぇ?

そこはほら。全く未知と言うか。


前の時はどうだったかな。


……もう少し、乙女な反応だった気もするけれど、今更この歳で可愛い反応をするのは難しい。

可愛い反応をしないようになって、何年経つのかな。


「えー……と」

「ん?」

「こういうのを、弱みとか、言うのかなって……思いました」

「弱み?」

訝しげに眉をしかめる磯村さんを見ながら笑った。


「ところで、何食べたいです?」

「……それ、俺に聞くのか?」

何にしようかなぁ。

考えながら下車駅に着くと、部屋前で待ち合わせをして、それぞれ買い物する為に別れた。
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