強引男子にご用心!

そして買い物が終わって、マンション前で鉢合わせ。

「あー……俺、着替えてからそっち行くわ。一時間後でもいいか?」

「あ。はい。じゃ、私も……」


……またまた気を使わせたかな。


一度、それぞれの部屋前でまた別れて、それから急いでシャワーを浴びる。

……着替え終わって、髪を乾かして、買い物袋から食材を出して洗っている時に、インターホンが鳴った。

覗くと磯村さんだったから、ドアを開ける。

「どうぞ」

「どうも」

今日の磯村さんの服装は、オフホワイトのシャツに、ジーンズ姿。

不機嫌そうな顔で、いきなり白い箱を突きつけられてのけ反った。


「な、何?」

「ケーキ。ついでにワイン」

「……買ったの?」

と言うか、箱入りケーキを買えるようなお店の営業時間、とうに過ぎてると思ったんだけど。


「営業なめんな。ついでに、男のプライドも甘く見んなよ?」


買って、来てくれたんだ。


……私のために?


どうしよう。

ど、どう……


黙って受けとると、少し指先が触れた。

触れたけれど、慌てちゃいけない。

ケーキの箱をキッチンカウンターに置いて、それから振り返る。


「あ、ありがとう」

磯村さんは眉を上げて、それからふっと笑った。


「妙に素直で不気味だ」

「一言多いですから!」

ぷいっと顔を背けて、キッチンに戻ると、磯村さんは勝手についてきた。


「あー……間取りは俺んちの逆なんだな」

「ええ。そうですね。今からご飯作りますから、座ってテレビでも見ててください」

「おー……」

磯村さんはキッチンカウンターの脇に立ち、部屋を見回してから私を見た。


……なんですかね。


「華がうちで落ち着く理由が解った気がする」

「…………」


リビングはフローリングで同じ。

逆向きの間取りだけれど、二人掛けのソファーには、かけるタイプのソファーカバー。
クッションをいくつか置いてある。

ソファーの前には白いローテーブル。
勿論、テーブルの上にはリモコンのみ。

シンプルなビデオラックには、磯村さんの部屋と同じ大きさのテレビ……

カーテンの色は私はオフホワイトだし、磯村さんは黒に近い灰色だったりするけれど、殆ど似たり寄ったりでそっくりな部屋。


へらっと笑って、磯村さんを見た。

「何か飲みますか?」

「なにあんの?」

「麦茶に烏龍茶にビールですかね」

「ワインあるけど」

うーん。

どうしようかな。

「ワインは、また今度にしませんか?」

「なんで?」

訝しげに腕を組むから、なんと言っていいものか、

「えー……と」

まず長ネギと人参を見せる。

「ん?」

それから、生姜を見せる。

「いや、あのな?」

次に、ほうれん草と大根を見せる。

「華? 全く解らないだろうが」

最後に、お魚のパックを見せて、苦笑した。

「さすがに、和食にはワインはあわないかな、なんて?」

磯村さんはそのままの体勢で眉を潜めた。

「……誕生日に、なんで和食だよ」

「洋食なんて誰が決めましたか」

「いや? 決めてねぇけど、ケーキ買うって言ったじゃねぇか」

「うーん。でもですね」

お米を計りながら、ちらっと磯村さんの不機嫌顔を見る。

「煮魚、食べたかったらしいし?」

言うと、磯村さんの表情が空白になり、それからいきなり視界から消えた。


「え。あの……?」

しゃがみこんで頭を抱えているのを見つける。

「磯村さ……?」

「そんなのいつの話だ、いつの!」

えーと。かれこれ1カ月くらい前?

「さすがにカレーライスは外しましたよ?」

「当たり前だ! つーか、自分の誕生日なんだから、せめてそこは自分が食いたいものチョイスしろよ」

「ダメですよ」

「なんで」

「だって、私が磯村さんにご飯作るの初めてじゃないですか」

初めて食べてもらうのに、自分の好きなものだけって言うのはどうかと思うのね。


「自分でも好きなものなので、気にしなくてもいいです」

お米を磨ぎながら言うと、磯村さんは立ち上がってワインのボトルをカウンターに置いた。

「じゃ、次はチーズ系の何かが食いたい」

「ピザでOKなら」

「それでいい。それから華子」

「はい?」

「いい加減、達哉と呼べ」

ソファーに座りテレビをつけた磯村さんを眺めつつ、首を傾げる。


それはまだ無理だな。
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