強引男子にご用心!
とりあえず麦茶を出して、寛いでもらっている間にご飯を作る。
それから出来上がったご飯を前に、ビールで乾杯した。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
「なんか変な誕生日になったな」
苦笑するから、苦笑を返す。
「でも、久しぶりにお祝いしてもらってます」
「あの女医さんとは、誕生日を祝わなかったのか?」
「水瀬は……飲むと際限なくて」
介抱するのも大変だし。
「ふぅん? そういや、俺たちは一緒に飲むのは初めてだな」
「そうですね」
時間があえばご飯を一緒に食べて帰り、磯村さんの部屋に寄って少しだけ過ごした後、22時になると私は部屋に戻る。
規則正しく、清い関係。
「後は見てねぇのは、それぞれの寝室くらいか」
「……見せませんよ」
磯村さんはニヤニヤ笑って、ビールを飲んだ。
「別に構わねぇよ。とりあえずは、座る位置からだろうが」
いつも磯村さんがソファーに座り、私が床に何か敷いて座る。
これが定位置。
だいぶ気にならなくなったけれど、二人掛けのソファーに、二人で座るのは……近いよね?
おいでおいでする磯村さんを眺め、黙って大根の煮物をつまむ。
「磯村さんの近くに行ったら、割りと簡単に触ってくるんだもの」
「聞いてから触ってる。断られた事はないと思うが」
……そりゃ、断った事はないけどさ。
何て言うか。
それが磯村さんなりの優しさなんだとは思うよ?
いきなり触られたら、きっとゾワゾワすると思うし、下手すると逃げるかもしれない。
だけど、言われたら言われたで、少しだけ身構えると言うか。
と言うか、磯村さんが聞くと言うことは、私が承諾すると言うことで……
私が“触れてもいいですよ”と、言っていると……
正直、恥ずかしいと言うか!
どれだけ私は女王様なのか……
と、言うか!
「聞かなくてもいいです」
「あ?」
「駄目な時は駄目って言いますから」
「……唐突だな?」
「だって……」
磯村さんはニヤリと笑いながら、黙々とご飯を食べる。
食べながら、私の答えを待っている。
待っているから……。
「磯村さん、解っていながら答えを待つのは意地悪だから!」
「解んねぇよ。だから聞いてんだろうが」
だって、だってよ?
今まで問答無用にキスしてきた男が、ここにきていきなり“聞いてから”触れるようになっている。
何をするにも“聞いてから”なのよ?
と、言うことは、これから先は、全て私が“大丈夫”て言わないといけない。
そういう事でしょう?
そういうのは無理よ。
絶対に無理よ。
無理よ!
「おい。エロ乙女。何を妄想してんだ」
「妄想なんてしてません!」
してたかもしれないけれど、してません!
断固否定します!
「心配しなくても、いざって時には言葉で聞かねぇから気にするな」
「いざ……」
「その点のリードは男に任すもんだ、エロ乙女」
「エロ乙女じゃありせん!」
「とりあえず飯食え、華子」
「意地悪……」
「お互いさまだ」
「私は意地悪じゃないです!」
そんな事を言い合いながら、ご飯を食べて、少しほろ酔い気分でケーキを食べることになった。