強引男子にご用心!

箱を開けると、入っていたのは生クリームの苺ケーキ。

乗っかっているチョコレートにはhappybirthday。

小売りのケーキかと思っていたけど、小さくてもちゃんとホールケーキだ。


「可愛いー」

「お前、酔ってるだろ」

呆れた視線にへらっと笑って振り向く。

「たかだかビール2缶くらいじゃ酔いません~」

「いや。お前5缶空けてたけど」

「そう? ストック無くなったかなぁ?」

冷蔵庫を開けようとして、いきなり視界が変わった。


「俺がやる」

「……う、うん?」

ストンとソファーに座らされて、また呆れた顔をされる。


今、だ、抱き抱えられた……ね?


「キャー……」

「反応遅ぇ。大丈夫か?」

「あ。はい。平気……」

みたい?


今、磯村さんに抱えられて、ソファーに座らされたけれど。

何も想像しなかった。

ゾワゾワも何も……

ビックリしただけで。


「ふうん?」

言いながらナイフと小皿、ケーキをローテーブルに置き、ロウソクを立てながらニヤニヤして。

火をつけながら、隣に座った。


「…………」

「………慣れろ」


ち、違う。

気持ち悪いとか、そういうことじゃなくて……


「緊張……する」

「それも慣れろ」


……解った。

頷いて、ケーキを眺める。

「吹き消してもいいの?」

「願い事するといいらしい」

「……願い事」

何だろう。

願い事……


潔癖症が治ればいいな。

潔癖症が治って、自然に触れるようになりたいな。

普通のお付き合いができるように。


……普通の?

普通に触りたい?

触れたいのかな。


「なんで顔赤いんだ?」

「あ、赤くないですっ!」


ロウソクを吹き消して隣を見る。


その瞬間に、微かに触れて離れて行く唇。


じっと磯村さんの顔を眺めると、ニッコリ爽やかな笑顔がこぼれた。


「じゃ、ケーキ切るか」

「……い、今」

「んー?」

「キ、キス……」

「何? もっとしっかりするか?」

ずいっと顔が近づいてきて、慌てて肩を押し返す。


「どうしていつも、不意打ちなんですか!」

「華に考えさせるとダメだろ?」

「こ、こころ構えしてれば大丈夫です」

「じゃ、今しろ」

「む、無理!」

「ほらな?」

あっさり離れて、磯村さんはケーキを切り分け始めた。


「…………」

何だか悔しい。


「どれくらい食べる?」

「磯村さん」

「んー?」

「触ってもいい?」

「はあ?」
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