強引男子にご用心!

にじり寄ると、少しだけのけ反る磯村さん。

「ちょい待ち。ナイフ持ってる」

「置いて」

「華? 目ぇ座ってるぞ?」

「いいから置いて」


コトリと小さな音がして、磯村さんが私に向き直る。


「で、どこに触る? 手?」

手を差し出されたから、両手でガッシリ顔を掴んだ。


「随分、積極的だな?」

「駄目ですか?」

「いや? ただ、人に触るには、もう少し慣れた方がいいな」

「……そう?」

「力みすぎ。少し力抜け」


力を抜く?

力を抜く……って、どうやって?

触るだけで、精一杯なんですけど。


「む、難しい、かも?」

「じゃ、手の甲で触ってみろ」

手の甲で?

瞬きして、手の甲で磯村さんの頬に触れる。


「思ったよりさらさら」

「帰ってから髭剃ったしな」

「髭、生えるんだ」

「生えるだろ。ガキじゃあるまいし」


そうだね。

大人の男の人だ。


男の…………。


「す、すみません!」

ぱっと手を離して、ソファーの端に座る。

それを見て磯村さんがふっと笑った。


「男に触る時には気をつけろよ?」

「う、うん。ご、ごめん」

「いや。気にすることじゃねぇよ。まぁ、悪くなかった」


悪くなかった?

そ、それはどういう意味で?


……穴があったら入りたいです!


「ほれ」

ずいっと目の前にケーキを差し出されて受け取る。

「まぁ、後で気持ち悪くなったら洗っとけ。そのうち触るのも触られんのも慣れてくる。どうってことなかったろうが」

「そ、そうね。大丈夫です」

「滅茶苦茶震えてたけど。本当に意地っ張りだな」

「震えてません!」

「そういうことにしといてやるよ。誕生日だしな」


それは負けてくれると言うことだろうか?

美味しそうなケーキを眺めて、フォークを差し出してくる磯村さんを見た。

思えば、磯村さんからモノを受け取れてるな。

ケーキの箱だったり、ケーキの乗ったお皿だったり……。

なんだろう。

なんでだろう。



「ありがとう……」

フォークを受け取って、ケーキを口にいれると、甘い生クリームが広がる。

「美味しい」
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