強引男子にご用心!

美味しいケーキを食べながらしばらく雑談して、それから食器を洗うためにキッチンに立った。

カウンターに乗せられたワインボトルを見ながら、洗剤を盛大に泡立てる。

チーズ系の料理って、ピザの他にはグラタンとか、そういうものしか思い付かないな。


「今度の金曜は暇です?」

「今度の金曜……明後日?」

「ピザ作るなら、生地を仕込みますから」

磯村さんはソファーから振り返り、困惑顔を向けてくる。


「生地を……仕込む?」

「トマトソースは買いますけど、何を乗せましょうか?」

「……なんでもいいけど。ピザ……買わないのか?」

「買ったピザは食べたことありませんし。うちはだいたい作るんです」

「……大変だな」

「大変ですよ。しかも、二人分は難しいから材料余ることも多いし」

「大々的にパーティーでもするか?」

「大々的に?」

「とすると、俺の部屋かな。山本と葛西にも声かけるか?」

「……私、水瀬しか友達いないんですけれど」

「合コンじゃねぇんだ、それでいいだろ。予定聞いておく」

「…………」


あまり知らない人は緊張する。

触られないか、触られたとしても許容範囲か、いろいろ考えていたら苦笑された。


「……人の女にベタベタ触ってくる奴等じゃないから安心しろ。まぁ、山本は気を付けた方がいいが」

「山本さんは彼女いないんですか?」

「彼女がいるのは、今のところ俺だけだな。水瀬女史は?」

「去年の12月までは居たはずですが」

確か、別れたって聞いた。


「おー……じゃ、山本にちょうどいいかもな」

「いえ。水瀬は女王様気質なので、山本さんの天然ぶりでは下手すると子犬ちゃんになってしまいます」

食器を濯ぎながら呟くと、磯村さんがまた困惑顔をした。


「……水瀬女史は、本当にあんたの友達だよな?」

「水瀬は小学からの友達です。ああいう性格ですから、これくらいなら聞き流してくれる」

「……あんたのアンバランスな性格形成にも影響力ありそうだな」

それはどういう意味。

「どっちにせよ、紹介は受け付けまないわよ。そういう子ですから」

「……そんな感じか」

「じゃ、後で水瀬にラインで連絡しておきます。あまり医務室に入り浸ると課長に体調不良を心配されますから」

「課長って。ああ、総務部の……」

「倒れたり、早退したりしてから、よく心配されるんですよね」

元凶が目の前にいるけれど。


「課長って、男だったか?」

「はい。2児のパパさんで、暇があれば奥さん自慢が始まる方なので、あまり近づかない方がいいですよ。一時間くらい邪魔されますから」

「……総務部って、案外、面白い部署なんだな」

「営業部程じゃありません」

「ところで」

「はい?」

顔を上げれば、不機嫌そうな磯村さんと目が合った。


「お前、スマホ持ってんの?」

「……ありますが」

「早く言え。持ってないもんだと思い込んでたじゃねぇか」

「…………」

今時のOLが、スマホを持ってない訳がないじゃないのよ。

確かに、連絡先は実家と会社と水瀬だけなんだけど、連絡する時に公衆電話なんて言語道断でしょうが。

公衆電話……

「鳥肌立っちゃったじゃないですか」

「何を想像してだよ」

「会社の内線だって、自分のデスクと水瀬のデスクしか使えないのに、公衆電話なんて使えないから!」

「あー……なるほど、それもそうか。まぁ、連絡先は教えとけよ」

流したな。
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