心動

「公園で犬の散歩してた少年!!」
そう梅が思い出して指を指すとびっくりした少年は本を落とした。

「え?なんで知ってるの?」
目をぱちくりさせて、少年は言う。
菫は少年が落とした本を拾った。
「いや、あの色々訳があるんだけどさ、
公園で休んでるときにたまたま見たというか、話題になったというか」
というと、少年は考え出してはっとなる。
「・・・〇〇公園?」
「そうそうそう!!」
少年も何故か覚えていた。
「その時に、私とこの子といたの」
と梅がいうと少年は菫に視線を移す。
菫は落ちた本を抱えながら、柔らかな微笑みを見せる。
そして、細い声で
「本落ちたよ」と抱えていた本を少年に渡す。

「あ、ありがと」
と一言礼を言う。と同時に
ガラッと教室の扉が開き、担任らしき先生が入ってきた。

菫達は、前を向き話をあとにした。

菫はそんな偶然もあるんだという感動と
驚きに遭遇した。


心の声が聞こえない。


右隣の少年の心の声が聞こえないのだ。
先生の話をしてる間、教室内ではあらゆる、心の声が飛び交っていた。
近くにいる右隣の少年だけは、何も聞こえないのだ。
不思議だと思い、横をちらりと見ると
右隣の少年は菫を見ていた。
「?!」
びっくりして、顔をそらす。
すると、少年はくすっと笑い、小声で言った。
「ごめん、人形みたいだなって思ってさ」
と、爽やかに笑った。
菫は首を傾ける。
『口はしっかり動いてる。心の声じゃない。』
不思議だなと思い、さらに反対側にも首を傾けた。

「?!」
少年は口元に腕を当てる。
「え、それ反則でしょ」
そう言って、机に伏せた。

菫はよくわからず、戸惑っていた。

後々、自己紹介もあり
右隣の少年は 「榛名(ハルナ)謙人(ケント)」という名前だということがわかった。

ごく普通な人なのに、なぜだか心の声は聞こえないのだけは不思議で仕方なかった。

学校から帰るときも、一人で考えていた。
梅は、部活を見に行くということなので、先に帰ることにした菫。
黙々と歩きながら、聞きたくなくても聞こえる心の声を聞いていた。

『死ねよこいつ』
『消えてしまえ』
強い声は一層ひびいて聞こえる。
息が詰まりそうになるときがある。
フルフルっと首を振って、深く考えないようにする菫。
すると後ろから声がした。

「危ない!!!!」

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