偶々、
「まだ、36分なんで。そちらは?」

彼はそう答え、ポケットから出した手の平をわたしに向けて差し出した。


向けられた手の指先が綺麗だった。それよりもびっくりなのは同じ時間だってことなのに、出された手をじっと見つめる。


すぐにポケットへとしまわれた手、ハッとして返事を口にする。

「あ、わたしも同じ。36分発です」


「奇遇ですね」

と、向けられた笑顔に吊られわたしの頰も綻ぶ。


その後、わたしたちはキョロキョロと周りの人の様子を流し見たり、隣のホームに到着した新幹線に視線を移すたりと、会話が途切れる。


この流れ、本来ならば座席を教え合うのだろうが、それはしなかった。


そんなに偶々があるわけない。

だから、その先を知るのが怖かった。
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