偶々、
その立ちすくむだけの人はわたしに気づき、会釈をした。わたしももちろん頭を下げる。

列に並んでいないことから16分発の列車ではないことがわかる。


その人影はあのライターの男性だった。


ホームの柱から一歩下がった場所に、小振りのボストンバッグと紙袋を足元へ置いてコートのポケットに両手を突っ込んでいる彼。

遠くからでも寒そうなことが伝わるが、身体の線は真っ直ぐに伸びていて、身体を縮こまるわたしとは立ち振る舞いが違いスマートだった。


まだいたんだというのが率直な感想。

あと、ライターは点いたからやはり返すべきだとも思った。

そして…。


何分発の新幹線なのか、そのくらいなら聞いてもいいのではないか。と、単純に興味が生まれただけ。


そう、それは本当に偶々。偶々聞きたいと思っただけ。
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