☆☆☆ 暴れキャンディ ☆☆☆
箸矢の姿は無かった。
「……」
茶碗子は右胸に手を当てた。
何も足跡は無い。
誰かの足跡は無い。
これではここにこの右胸に誰かが居たなんて信じる方が困難である。
自分に言い聞かす事は出来ない。
「……」
今確かに茶碗子は夢ではないと信じたがっていた。
前確かにこれは夢だと信じたがっていた。
「……」
この右胸に宿っていたクラスメートの真面目で誰とも一言も口を聴かない男子。
箸矢涼。
本当の箸矢涼。
家用の箸矢涼とやらとの一日半の交流。
交わした大量の会話。
どれもこれも楽しかった。
楽しかったのは自分も家用の家族にしか母親にしか魅せない自分で接したから。
そしてそれを受け止めてくれたから。
楽しかった。