素顔のマリィ
流加が居なくなったのは、ほんと、わたしにとって青天の霹靂だった。
わたしの世界が崩壊したのだ。
「急なことですが、ヤナギルカくんは、お父様の仕事の都合でアメリカに行くことになったそうです。
わかっていたら一学期にお別れ会もできたのだけれど。学校に連絡が来たのが今朝のことで。ほんとに急なことでさよならも言えませんでしたね」
新学期の朝の会で、担任の佐藤先生がとても残念そうにそう言った。
「先生! アメリカってどこですか?」
わたしは必死で食い下がった。
どうにかして流加のところへ行くつもりだった。
「アメリカはね、太平洋を隔てた海の向こう。飛行機に乗っても10時間以上はかかる遠いところなの。先生、住所は伺っているから、みんなでお手紙を書きましょう!」
その時のわたしの絶望は、言葉では言い表せない酷いものだった。
だいたい太平洋がなんなのか分からなかった。飛行機に乗って10時間の距離がどれくらいなのかも。
恐らくそれは、8歳のわたしが想像もつかないような遠い遠いところなのだということがおぼろげながら理解できただけで。
一昨日まで一緒にいた流加が、一瞬にしてわたしの目の前から消えてしまった。
魂の半分を持ち去られた気分だった。