素顔のマリィ
「じゃ、マリ、元気でな」
成田空港のロビーで、そうわたしに別れを告げた山地裕輔は、一人異国の空へと飛び立っていった。
あれから何度も話し合ったけれど、思いは平行線のまま。
わたしの独立性を認めていたように見えた彼も、所詮は世間一般の男性優位主義者だったわけ。
「マリだって向こうで仕事を探せばいいじゃないか。
生活の基盤は保障されてるんだ、案外今より自由に動けるようになる。
マリが感性を磨くには良い機会だと思うぜ」
自ら進んで新天地を望むのと、誰かに付随して機会を与えられるのはワケが違うと私は思った。
裕輔、貴方はやっぱりわたしをわかっていない。
「もし、貴方がわたしのことを生涯かけて愛しぬくって誓う気があるなら、5年の空白なんてどってことないでしょ」
現にわたしは、もう十数年、流加の背中を想い続けているんだもん。
「おいおい、妄想もいい加減にしろよ。
お前は俺についてくる気があるのか、ないのか。
俺だって男だ。
5年も一人で悶々としてろってのかよ」
わたしは彼に貞節を求めているわけじゃない。
永遠の愛こそ妄想だと思う。
愛は時と場所を変え、常に変化してゆくものだ。
流加に対するわたしの愛が、胸の奥深くに仕舞われたまま、静かにわたしを守ってくれているように。
「兎に角、今わたしはこの場から逃げるつもりはありません」
それが、わたしの出した最終結論だった。