素顔のマリィ

頑張っていたのは、わたしも同じなんだけど。

そりゃぁ、彼は国立大院卒のエリートかもしれないけど。

山地だけが評価されたことが、納得いかない。

なんかなぁ〜

「はぁ……」

と、思わず溜息が漏れてしまった。

いけない、いけない、今は就業中だ。

「さて、今日は中央図書館でしたかな」

山下さんがゆっくりと立ち上がった。

「あ、はい。司書の仲間さんに呼ばれています」

「在庫目録と新刊本の案内をお願いします」

「はい、持ちました」

「では行きましょう」

わたしは資料を入れた鞄を持つと、山下さんの後に続いた。

地下鉄を乗り継いでいく道すがら、隣りの席に座った山下さんがわたしを気遣って声をかけてくれた。

「寂しくなりますね。坂井くんは山地くんと仲が良かったでしょ」

販促課にもよく顔を出していた山地のことを、山下さんはよく知っている。

『美術手帳』についての昔話を二人して聞いたこともある。

そして多分、山下さんは山地とわたしの関係を友達以上と思っているに違いない。

だから彼は、わたしの様子を心配してくれているのだ。

「はい。わたし達、二人だけの同期なんです」

「それは心細いでしょ」

「はい。でも仕方無いです。彼にとっては喜ばしいことですし」

「若いうちの数年は、長く感じるものです。

でも長い人生、5年なんてあっという間です。

会いたいなら会いに行けばいい。それも若さゆえです」


5年という言葉がひっかかった。

なんとなくすっきりしないのは、悔しさよりも寂しさが勝っているからなのかもしれない。

だけど案外ことは単純だ。

会いたいなら会いに行けばいい。
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