素顔のマリィ

「ほんとにわたしもご一緒して良いんでしょうか?」

「ワシも前々から、坂井くんを誘って欲しいと頼まれてたからな」

「そうなんですか?」

「会食と言っても、西園寺くんとワシは昔なじみということで、専らプライベートな話をするだけなんじゃ。

それに、彼は食い物には煩い男でな。食事は折り紙つきじゃ」

「でも、わたしみたいな部外者がいたら、お話の邪魔じゃないですか?」

「君が居れば、『美術手帳』の話もできるし、ワシもその方が有意義な時間を過ごせるというものじゃ」

「はぁ」

「だいたい、こんな老いぼれと話すより、西園寺くんも楽しいじゃろうて。

他に先約があれば別じゃが……」

「先約なんてありません」

「よし、決まりじゃ」

山下さんにしては珍しく強引に、わたしも一緒に会食に同席することになってしまった。


とある銀座の料亭で、わたしの目の前には綺麗に盛られた料理が並んでいる。


高そう……


味わう前から、喉を通る気がしなかった。

だいたい入口からして仰々しかったし。

玉砂利敷きのエントランスから、奥の玄関までの長いこと。

山下さんは、気負いもなく普通に歩いてらしたけど。

わたしは自分の足音が気になって仕方なかった。

< 105 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop