素顔のマリィ
「ほんとにわたしもご一緒して良いんでしょうか?」
「ワシも前々から、坂井くんを誘って欲しいと頼まれてたからな」
「そうなんですか?」
「会食と言っても、西園寺くんとワシは昔なじみということで、専らプライベートな話をするだけなんじゃ。
それに、彼は食い物には煩い男でな。食事は折り紙つきじゃ」
「でも、わたしみたいな部外者がいたら、お話の邪魔じゃないですか?」
「君が居れば、『美術手帳』の話もできるし、ワシもその方が有意義な時間を過ごせるというものじゃ」
「はぁ」
「だいたい、こんな老いぼれと話すより、西園寺くんも楽しいじゃろうて。
他に先約があれば別じゃが……」
「先約なんてありません」
「よし、決まりじゃ」
山下さんにしては珍しく強引に、わたしも一緒に会食に同席することになってしまった。
とある銀座の料亭で、わたしの目の前には綺麗に盛られた料理が並んでいる。
高そう……
味わう前から、喉を通る気がしなかった。
だいたい入口からして仰々しかったし。
玉砂利敷きのエントランスから、奥の玄関までの長いこと。
山下さんは、気負いもなく普通に歩いてらしたけど。
わたしは自分の足音が気になって仕方なかった。