素顔のマリィ
「遅れて申し訳ない」
わたし達より30分ほど遅れて西園寺常務が現れた。
「いやぁ、先に頂いているよ」
実を言うと、山下さんは着くなり日本酒を注文されて、先に一杯召し上がってらっしゃるのだ。
わたしは先に料理に箸を付けるわけにもいかず、だたじっと隣りで山下さんの話し相手をさせて貰っていた。
お酒を召された山下さんは上機嫌で、若い頃の冒険話を面白可笑しく話してくださったので、30分はあっという間に過ぎたのだ。
「お、千寿ですね。僕もそれ頂こうかな」
常務は山下さんの向いに座ると、空いた杯に酒を注いだ。
「お疲れさまです」
小さく杯を掲げると一気にそれを飲み干した。
「あぁ、美味い」
綻んだ顔が心なしか赤い。
「要くん、こちら……」
山下さんが、隣りで小さくなってるわたしを気遣って常務に声をかけてくださった。
「わかってます。坂井真理さんだよね」
「はい」
「今夜は無理矢理誘ってしまったみたいですまなかった」
「いえ、わたしも色々伺いたいこともありましたので」
「そうか、まぁ、今日は無礼講だ。
なんでも聞いてくれていいよ」
その前にもう一杯、と常務は手酌でお酒をつごうと徳利に手を伸ばした。
「あ、お注ぎします」
「いや、結構。
そんなことはしなくていい。
僕は自分のペースで飲みたい性質だからね。
それより君は飲んでないのか?」
「え、はい」
「飲めない?」
「いえ、そういうわけでは」
「遠慮はいらないよ、なんなら僕が注いであげようか?」
ほら、杯出して、と促され、わたしは渋々杯を差し出した。