素顔のマリィ
「で、なんで山地裕輔が英国支社なんですぅかぁ?
わたしだって、英語話せないけど、海外勤務とか憧れますぅ」
はっきり言って、もう自分でも何を言っているのかわからなかった。
勧められるがままに杯を飲み干して、気が付けば相当酔いが回っていた。
山下さんが隣りにいるので、すっかり気を緩めてしまったのだ。
ふと見ると、隣りにいる筈の山下さんの姿がない。
「あれぇ、やましたさんは?」
「山下さんは先にお帰りになったよ。
彼は自分の酒量を心得ているからね。それにしても君は見かけほど強くないな」
「日本酒は飲んだことありましぇん」
「口当たりがいいからね」
「常務っ、だからぁ、なんで山地なんですかぁ」
「そりゃ決まってるだろ。
悪い虫は寄せ付けないに越したことはない」
「虫?」
「彼はなかなかいい男だからね。学歴家柄も申し分ない。能力もあるし、見た目もいい。僕にとってはお邪魔虫だ」
「おじゃまむし?」
「君と彼の関係を、これ以上見過ごすわけにはいかなかった」
「かんれい?」
ほとんど意識を失いかけていたわたしには、はっきり言って常務の言葉の意味が全く理解できなかったのだ。