素顔のマリィ
「悪いが、僕は休日出勤でね。
先週は出張続きで、事務処理が溜まってるんだ。ここで休んでいてくれても構わないんだが……」
あれから直ぐに、わたしはベッドから起きて、顔を洗って身支度を整えた。
常務の家の洗面はナント洗面ボールが二つも並んでいた。
前面ガラスの室内は、わたしの家の台所よりもずっと広く見えた。
スカートは少し皺になっちゃってけど、上着はちゃんと脱いであったし。
よくよく見れば、わたしの姿は、化粧も落とさず寝入ってしまった只の酔っ払いだった。
「いえ、そんなご迷惑ですよ。
わたしも家事が溜まってますから、帰って色々片付けないと」
常務の入れてくれたコーヒーを一杯頂いて、やっと少しだけ気分も落ち着いてきた。
「そうだな、君にも君のやることがあるだろう。
じゃ、家まで送っていこう。
それで爺さんにも面目がたつ」
どうしてもこれだけは譲れない、と、丁重に断るわたしを強引に車に乗せて、常務はわたしを家の前まで送り届けてくれたのだ。
彼の高級な山の手のマンションとは天と地ほどの開きのある、郊外の古びた3階建てのマンションへ。
あぁ、母が夜勤の日で助かった!
まだ朝の八時だし、母が帰ってくるまでには化粧を落としてシャワーを浴びて、寝床に潜って眠りにつく時間がなんとかある。
こんな失態、恥かしくて知られたくない。