素顔のマリィ


「坂井くん、マロニエのマロンパイを買ってきたんだ、お茶にしないかい?」


あの会食以来、なにかと理由をつけては西園寺常務はこの地下に降りてくるようになった。

勿論、表向きは業務視察、兼、情報収集?

専ら山下さんや課長を囲んで、売上げ談義や出版業会の今後、みたいな内輪話に沸いている。

だけど、彼は必ずわたしの好きな甘い物を手土産に持ってきてくれるのだ。

年配の男所帯の販促課だけど、健康の為と称して煙草を止めた我が課のおじ様方は、意外と甘党だったりする。

「いやぁ、西園寺くん、いつも悪いね」

役職は遥か上の常務だけれど、年配者ということで気負いもなく、みなさんわたし同様彼の訪問を楽しみにしていたりもする。

日によっては嘱託の中澤さんがいて、腕を奮って本格リーフティーを入れてくださるのだけれど。

わたしに出来るのは、インスタントのコーヒーかティーバックの紅茶を、お好みで入れてあげることくらいだ。

「はい、常務は紅茶はストレートで宜しいですか?」

いつの間にか、我が課の給湯コーナーには常務のマイカップが置いてあったりする。

白地に青のラインの美しい、ウェッジウッドのマグカップだ。

何度かお茶を入れてわかったこと。

常務はケーキの種類によって、ミルクティーかストレートティーを選ぶ。

クリーム系にはミルク、チョコ系にはストレート。

マロニエのマロンパイは、マロンクリームの下はココアスポンジなので、多分常務はストレートを選ぶんじゃないかと思った。

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