素顔のマリィ
わたしの身体が目当て?
いやいや、もしそうなら、あの日とっくにわたしは襲われていた筈だ。
それなりの経験はあるけれど、所詮子供の戯言のようなセックスしか経験がない。
あんな大人の男と対等に向き合うことなどできやしないよ。
「坂井くん?」
わたしの思考は暫く妄想に占有されていたようだ。
いかん、いかん、ここは会社。
仕事のことだけを考える場所だ。
「これから、みちゆき書房の安西さんと会うんだが君も来るかね?」
「はい、是非」
山下さんに言われて、わたしは二つ返事で頷いた。
みちゆき書房は、児童書専門の出版者だけど、絵画関係の雑誌を出している。
絵本の原画作者を育てたいという思いがそこにはあって。
我が社の芸術路線とは一線を画しているため企画がダブルようなこともない。
実はわたし、前からその季刊詩『春夏秋冬』の読者なのだ。
わたし自身の描く絵が、どちらかというと童画系ということもあり、何度かみちゆき書房企画の絵画展にも応募したことがある。
安西さんはその『春夏秋冬』の編集長なのだ。
「懐かしいな、安西か」
山下さんとわたしの様子を伺い見ていた常務が、近寄ってきた。