素顔のマリィ

「山下さん、僕も一緒にいいですか?」

「ワシは構わんが、時間はいいのか?」

「今日はこの後、明日からの出張に向けて早めに上がるつもりでいたので」

「そうか、なら都合がいいな。

安西くんも久しぶりに君に会えて喜ぶだろう。

この歳になると、そういう機会が何度もあるわけじゃないってことが痛いほどよくわかる。

膳は急げだ、さぁ、坂井くん出掛けるぞ」

俄然元気良く歩き出した山下さんと常務の後を追って、わたしも部屋を飛び出した。

話の様子じゃ、安西さんと西園寺常務は知り合いらしい。

まぁ、同じ業界だもの、それほど珍しいことではないと思った。

みちゆき書房は、社から地下鉄で二駅ほどのところにある。

小さいながらも自社ビルを構え、一階に画廊を兼ねたオープンスペースを持っている。

自社出版の絵本の原画が常設展示されていて、企画の絵画展もこの画廊で行われる。


懐かしいなぁ〜


流加が描いた空の絵が、あの夏の企画展で特別賞を取ったのだ。

受賞式は極々簡単なものだったけど、副賞の100色パステルを凄く嬉しそうに眺めていたっけ。

< 115 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop