素顔のマリィ
画廊のロビーで安西さんが出迎えてくださった。
「山下さん、お待ちして……、西園寺くん!」
その驚きようからして、彼女と常務はかなり親しい間柄なのだと推測された。
確かに、年の頃は同年代、安西さんはそれはそれは美しい女性編集者なのだ。
「やあ、安西、久しぶり」
「えぇ〜、びっくりさせないでよ!
すいません、山下さん、あんまり驚いて取り乱してしまいました。
山下さんも人が悪いなぁ〜、彼が一緒なら一緒だと言ってくだされば心の準備もできましたのに」
「いや、安西くんすまないね。
僕がみちゆきに行くと言ったら、西園寺くんが急に一緒に行くと言い出してね。
だが、サプライズもまた楽しいじゃありませんか」
「西園寺くんも元気そう。って、くん付けで呼んじゃ失礼かな、西園寺常務」
「やめてくれよ、僕だってなりたくて常務になった訳じゃない。
肩書きに潰される前に、早々に退散したい気分なんだ。
安西は変わらないな」
「わたしは万年平編集者ですからね。
毎日忙しくて過去を振り返る暇はないの。
常に前進あるのみ」
三人の会話に入って行けず、わたしは一人、その場から少し離れて画廊の中を見渡していた。
みちゆき書房へ同行したいと思ったわけは、女性編集者である安西さんにお会いしたかったというのも一つの理由ではあるが、もう一つ大事な用件があったのだ。
この画廊には、流加が特別賞を取った空の絵が飾ってある。
わたしは、今日、その絵に会いに来た。