素顔のマリィ

「その絵がお気に召したようね」

そう声かけられて振り向くと、安西さんがいた。

「その絵は、何年か前の企画展で特別賞をとった絵なの。

作者は当時まだ高校生だった、柳流加くん。

彼は今イギリスで絵の勉強中だけど、将来有望な画家さんよ」

「えっ、なんで安西さんがそんなこと知ってらっしゃるんですか?!」

「あら、だって、柳くんとは交流があるもの。

企画展の受賞者は、我が社にとっても将来なんらかの形で関係を持てると思ってるし。

そこはキチンとフォローしてますから」

大人と子供の違いを見せつけられた気がした。

「あら、もしかして貴方……、あの時柳くんと一緒に受賞式に来たお嬢さん?」

「あ、はい」

「まぁ、奇遇ね」

「わたしの絵は流加みたいに上手くないから、わたしは絵を扱う編集者になれたらなって思ってます」

「『美術手帳』ね」

「まだまだそんな技量はありませんけど、今、頑張って修行中です」

「目標を持つのはいいことだと思うわ。

社会に出ると毎日が飛ぶように過ぎて行くもの。

自分を見失わないためにも、目標は持つべきね。

それに、山下さんの下で働いているってことは、貴方の努力も報われる可能性大ってことよ」


ねぇ、西園寺くん? と、安西さんは常務を呼び寄せた。

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