素顔のマリィ
インターネットを駆使しても、海外の美術学校や美術サロンに連絡をとってみても、流加の居場所は探し宛てることができなかった。
「なんだ結局、同じじゃない……」
イギリスの美術サロンから送られてきた信書を開き、何度目かの落胆の溜息をついた。
『……彼は今イギリスで絵の勉強中だけど、将来有望な画家さんよ』
あの時の安西さんの言葉だけが、流加を探す唯一の手がかりだった。
安西さんに直接聞けば済むことかもしれなかった。
彼女は流加の居場所を知っているかもしれないし、単にあれは彼女の憶測に過ぎなかったのかもしれない。
けれど、一編集者としてのわたしのプライドがそれを許さなかったのだ。
まぁ、居場所がわかったからと言って、どうするわけでもなかったし。
「坂井くん、何を落胆しているのかね?」
向かいの席に座る山下さんが、興味有り気に聞いてきた。
「いえ、たいしたことじゃありません。
問い合わせの内容が期待はずれだっただけです」
「真っ向勝負が有効な時と、技が必要な場合の見分けは結構難しいからね」
「えっ?」
「知りたいことの答えは、一面から攻めても得られないということかな」
「はぁ」
「例えばワシが美味しいパンを食べたいと願ったとする。
美味しいパン、と言っても範囲が広すぎてなかなか焦点を絞ることができない。
まぁ、ワシが欲する美味しいパンは、中に餡やクリームが入ったものじゃない、極普通の食パンだ。
さて、君ならどう探す?」