素顔のマリィ
入社二年目のわたしは、次第に一人で任される仕事も増えてきた。
大型店舗を回るキャンペーンの販促も、自分なりのアイデアで効果をあげてきたし。
山下さんの助言に従い、いろんな角度から、流加の消息を辿る努力をしてみたが、どれも確かな手応えもなく。
わたしは次第に諦めかけていた。
「おっ、このポップ目を惹くね」
新宿紀伊国屋の店頭での写真集発売記念を兼ねたサイン会が開かれていた。
写真家の井口さんは、アマゾンの支流を巡り、南アメリカ大陸の自然破壊を訴えている活動家でもある。
今回の写真集は、3年かけて取り溜めた小動物の写真集だ。
『緑の地球がなくなるまえに』と噴出しをつけた、等身大のカメラを構えた井口さんのポスターをサイン会用に自作したのだ。
これなら、会場毎の設営にも差が出ないし、なにより丸めて運べるので移動も楽だ。
「常務っ!わざわざこんなところまで、ご苦労さまですっ!」
「いや、なに、丁度通り掛ったものだからね。
今日は一人でサイン会?」
「あ、はい。山下さんは昨日から腰痛で休んでらっしゃいます」
「あぁ、最近、腰が痛むらしいね」
「今日は一人でも大丈夫なんで」
そう言ったのに、わたしの言葉は全く解せず仕舞い。
「じゃ、僕が代わりに手伝おう」なんて、常務は上着を脱いで、誘導係の腕章をつけて準備を始めてしまった。