素顔のマリィ
ほどなく時間となり、短いながらもサインを求める列ができた。
わたしの作ったポップが功を奏して、何事かと足を止める人もいて。
何人かが写真集を手に取り、購入してくれた。
開いてみれば、そこには別世界が広がっている。
どこまでも続く深く青い空。
緑燃える逞しい木々。
その狭間で生きる、小さな生き物達の姿。
繰り返される自然の営みの中で、目を凝らさなくては見損なってしまうような小さな命。
彼の撮った写真から、新種の発見に至ったことも一度や二度ではないと聞いた。
「ありがとう」
一人ひとりにそう礼を述べて握手して、「井口直樹」と綴るその几帳面な字面からは彼の大胆でエネルギッシュな内面は伺いしれない。
でも、きっとその力は彼の手を通して伝わっていると思う。
写真集を大事そうに抱えて帰る人々の顔に、若干の赤みが差しているのがその証拠だ。
「坂井さん、今日は本当にありがとう。一日、お疲れさまでした」
わたしにも、そう言って手を差し伸べてくれる彼の気さくな人柄が、わたしにこの等身大のポップを作らせたのだから。