素顔のマリィ

キャリーバックに備品を詰め、帰り仕度を完了させた。

「僕は車だから、送っていくよ」

「いえ、結構です。来るときも地下鉄乗り継いで来たんですから」

「そんなこと言わずに、善意は有り難く受けるものだよ、坂井くん」

「だから、それを善意と取らない人達も沢山いるんですよ!

常務、わかってやってます?」

「僕が販促課に足繁く通ってる、って噂のこと?」

「なんだ、やっぱりわかってるんですね」

「事実は事実。否定はしないよ。でも今日はあくまで善意だ。

紳士として、女性が一人でこんな荷物を持って帰るのを見過ごすわけには行かないよ。

もしここに山下さんがいたとしたら、きっと快く受けてくれると思うな」

ほら、こっちこっち、と地下駐車場に続くエレベーターに促されて、わたしは渋々彼の後に従った。


最近こんな風に、わたしの外出先に常務が姿を現す機会が増えていた。

まるでわたしの行動計画表を盗み見ているかのごとく、ピンポイントで出現するのだ。

課長か山下さんが、一役買っているとしか思えない。


もう……、止めてほしい。
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