素顔のマリィ
地下駐車場から販促課までは僅か数十メートルの道のりだ。
幸い、誰にも見咎められずに部屋に戻ることができたと思う。
「ありがとうございました。助かりました」
丁寧にお礼を述べて踵を返す。
荷物を置いたら、今日は定時に上がるつもりだった。
「坂井くん、このあと食事でも行かないか?」
後ろから追いかけてきた声に立ち止まった。
「今日は定時上がりだろ、たまには付き合ってよ、山下さんのことで話しておきたいこともあるし。
このまま、ここで待ってるから」
有無を言わさぬ強引さで、常務はわたしの時間を絡め取ろうとする。
山下さんを持ち出すなんて、ずるいと思う。
でも、気に留めない訳にはいかなかった。
最近、彼の様子がおかしいのは確かだった。
高齢ということもあるけど、それにしても体調が優れない。
ここ一月、三日に一度は休まれていた。