素顔のマリィ
「お待たせしました」
カツカツとヒールの音もけたたましく、わたしは戦場に赴く戦士のように肩を怒らせて歩いていった
「くくっ……、今日はやけに素直だね」
車に背を預けるような格好で、そんなわたしの歩いて来る様を、常務は笑いを堪えるように眺めていた。
うぅ……、もう大人の余裕で憎たらしい。
「だって、山下さんのことはわたしも気になってます」
「彼を口実に君を誘うのは反則だってわかっているけどね。
そうでもしないと、君はなかなか僕の誘いに乗ってくれない」
「当たり前です。
常務の誘いにホイホイ乗るほど、わたし馬鹿じゃありません。
何が面白いんですか?
わたしみたいな小娘のことからかって」
「くくっ……、からかわれてる自覚はあるんだ」
うぅ……、もうこの人叩いていいですか?
「常務、人目もあります。早くここから出ましょう」
それもそうだな、と彼はわたしを車に押し込むと、さっきと同じ緊張した面持ちで車をゆっくりと発進させた。