素顔のマリィ
「僕はね、妾の子なんです」
彼の馴染みの料亭で、個室だから良いというものの、そういう爆弾発言はたいがいにして欲しい。
「そりゃ、金銭的な援助はずっとありましたから、ひもじい思いをしたとか苦労したとか、そういうことははないんです。
父には母の他にも何人か妾がいて、子供が全部で八人いました。
その内、男が五人。
ずっと比べられて生きてきた」
ゴクリ、と一口日本酒を喉に落とし込んだけれど、食事に箸をつける気分にはなれなかった。
「父は、子供の中で一番優秀な者に自分の跡を継がせようと考えていたようです。
母は父に気に入られたい一身で、僕に勉強やスポーツで良い成績を収めさせようと必死だった。
僕だって母に気に入られたい。小さい頃はその期待に応えようと頑張っていました」
ほら、天ぷらは熱いうちに召し上がれ、と促され、わたしは海老天を一口サクリとかじった。