素顔のマリィ

だから?

「暫くは山下の爺さんの顔が見れなかった」

なんで?

「葬式の時の爺さんは、泣くでもなく、悲しむでもなく、ただ現実を静かに受け止めて黙って受け入れていた。

泣いて叫んでわめき散らす僕を、冷たい視線で押し黙らせようとした。

お前が泣いてどうする、お前が潰れてどうする、そんなことを大輔も桜も望んじゃいないぞってね」

常務が山下さんのこと、厳しい、と表現したのはそういう意味だったのか。

普段は穏やかで優しい山下さんの、どこがそんなに厳しいのか、わたしにはさっぱりわからなかったのだ。

時折くれる助言は、確かに人生訓めいて内容的には自分に厳し目のものが多いとは思ったけれど。

「山下さんは、もう長くない」

「えっ?」

「胆嚢癌の第四ステージだ。腰が痛むのも、多分そのせいだ。

本人は延命治療を望んでいない。

もう暫く様子を見て、痛みが酷ければ緩和療法を受けることになるだろう」


わたしは言葉を失った。
< 137 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop