素顔のマリィ
お酒を飲んだ常務は、車を代行に頼むとわたしと一緒にタクシーに乗り込んだ。
「無理にとは言わないが、できれば今夜は一緒にいて欲しい。
一人になりたくないんだ」
その言葉にわたしは静かに頷いた。
わたしも一人になりたくないし、彼を一人にしたくなかった。
そう思ったのも、彼への愛情が芽生えたからかもしれない。
山の手にある大きなマンションのエントランスにタクシーが止まった。
現実味を帯びない、御伽噺のような展開だ。
「いたっ」
でも、これは現実、頬をつねってみたがやっぱり痛かった。
「マリィは面白いね」
少しだけ挙動不審なわたしを見て、常務が笑う。
「だって、なんだか夢見てるみたいですもん。現実味が全然無いです」
「これからじっくり実感してもらうよ」
「えっ?」
「僕がどれだけマリィを求めているか」
「それって誘ってるんですか?」
「いけない?
僕はマリィの心も身体も、愛してるんだ。
それが人間だろ」