素顔のマリィ
「寂しくなりますね」
山下さんが最期を迎えた東京郊外にあるホスピスの庭を、常務と二人歩いていた。
いつの間にか秋も深まり、地面には紅葉やケヤキの落ち葉が降り積もっていた。
「あぁ……」
「山下さん、ご立派な最期でしたね」
小さい頃に父を亡くし、祖父母とも疎遠だったわたしは、人の死に目に会うのは今回が初めてだった。
だから、常務の今の心境などわかる筈もなかったのだ。
「あぁ……」
「常務っ」
「あぁ……」
<<バシッ!>>
まるで抜け殻のように打ちひしがれる彼の背中を、思いっきり叩いてやった。
「山下さんは、ちゃんと常務に大切なことを教えていってくれたじゃないですか!
常務も見て感じた筈です。
生きることは尊いことなんですよっ!
ちゃんと前を向いて、自分の人生を最期の時までしっかり見つめていかなきゃいけないんです!」
悲しみに打ちひしがれる彼の様子に苛立ちを覚えたのは、わたしにそれだけ実感がなかったからかもしれない。
「そうだな、マリィの言う通りだ。
だけど、暫く、もうしばらく、悲しみに浸る時間を僕にくれないか」
常務はわたしをしっかりと抱きしめると、震えた声でそう言った。
それが、彼の精一杯の強がりだったのだ。