素顔のマリィ
「僕は弱い人間だよ」
恥かし気もなくそうわたしに告げたのは、彼の誠実さのなせる業なのか。
それとも、彼なりの駆け引きだったのか。
「だから、マリィが傍にいてくれると心強い」
わたしを抱きすくめる彼の腕は、力強く、その言葉を俄かに信じることはできなかったけれど。
どっちつかずの気持ちのまま、あれから何度か常務と身体を重ねていたけれど。
彼はそんなわたしを見透かしたように、弱音を吐いてわたしを求めた。
わたし達は山下さんを看取ったあと、なんとなく付き合い始めた。
それは文字通り、付き合いを始めてみた、ということだ。
わたしは身体の関係だけでなく、彼と生活時間を共有することを許した。
休日に一緒に美術館を巡ったり、カフェでお茶を飲んだり。
彼の部屋で本を読んで過ごしたり、二人で使うお揃いのカップを探しに街へ出かけたり。
彼との時間は心地良く、会話は尽きることなく楽しかった。
山地といた時は、歳が近いということもあり、対抗心丸出しで挑むように関わっていたと思う。
実際、彼の学識に嫉妬したし、それに追いつきたいと頑張りもした。
でも、要はわたしに自由に話をさせて、それに知識を肉付けしていってくれる。
わたしの知らないことや、新しい視点、これからの展望。
「マリィ、それはなかなか良い発想だね」
時には褒め、時には慰め、時には一緒に考えた。