素顔のマリィ
ある時、美術館で安西さんに出くわしたことがあった。
「ほらマリィ、こっちのこの絵も見てご覧」
彼の声に気付いて振り向いたのは、彼女が要に気があったからかもしれない。
だって、前に、要を食事に誘っていたくらいだし。
「マリィ、ってあなたっ!」
坂井さんでしょ、芸術出版の、と周りを憚るくらいの大きな声で、彼女はわたしを見て言った。
「もしかして二人って付き合ってるの?
休日に仕事で美術館巡り、ってことも有り得なくはないけど」
もの凄く驚いた顔で、要とわたしを交互に見ながら、安西さんは訝しがった。
「まさか西園寺くんがね」
って、それはどういう意味なのか、詳しく聞きたいくらい彼女は何もかもお見通しな様子だった。
「安西には関係ないだろ」
「関係なくはないよ」
「どういう意味だよ」
「西園寺くんは、間違ってる」
そう言い切った安西さんは、もの凄く怒っているように見えた。
「安西さん?」
わたしは何が問題なのか、思いつくとろこが多すぎて、何から釈明して良いのか悪いのかもわかならい。
「あ、貴方は悪くないのよ。悪いのは彼。
どんな手を使ったのか知らないけど、やっぱりこれって間違ってる」