素顔のマリィ
彼女の様子は、どうやら要とわたしの関係に嫉妬してる、というのではなさそうだった。
じゃ、何が間違ってるっていうのだろうか?
わたしが戸惑っていると、
「黙れ!」
要の発した、腹の底から響くような低い声に身体がゾクッと震えてしまった。
今まで聞いたことのない、要の威嚇の言葉。
「要?」
「悪いマリィ、ちょっと待ってて」
安西さんの腕を力づくで引っ張ると、要はそのまま彼女を連れて足早に展示室を出て行った。
尋常じゃない彼の様子に、不安が募った。
いったい彼女は何を怒っていたのだろうか。
暫くして戻ってきた要は、わたしにその理由をこう説明したのだ。
「彼女とは昔付き合っていたことがあってね。
一度別れたんだけど、その後も何度か復縁を迫られていて。
僕もはっきり断れば良かったんだけど、なんとなく有耶無耶のまま放置してたんだ。
君とのことがなけりゃ、また付き合っていたかもしれない。
だからって、君に当たるのは間違ってるよな。
彼女には、改めて、はっきりと断った。
もう今は僕には君という大切な人がいるってね。
彼女もわかってくれたと思う」