素顔のマリィ
彼の言葉をそのまま信じることもできたかもしれない。
信じられたら、二人の関係は違ったものになっていたかもしれない。
でも、わたしは、はっきり言って、嘘だと思ったのだ。
要はわたしに、重要な何かを隠している。
女の直感がそう教えていた。
山下さん亡き後、要が販促課に足を運ぶ回数はめっきりと減った。
それはまるで彼が会いに来ていたのは、わたしではなく山下さんだったことを見せ付けるようだった。
実際のところはわからない。
わたし達は会社の外で親密な時間を過ごすようになっていたのだから、その必要が無くなっただけかもしれなかった。
幸い、要とわたしの噂は、いつのまにか立ち消えて、わたしの会社での生活は極普通に戻っていった。
販促課は山下さんを欠いた後、彼の担当を均等に割り振ったのだけれど、結局それは暫くしてわたしの元へ帰ってきた。
いつの間にかわたしの中に蓄積された知識は、山下さんの形見のように、しっかりと根付いていたようだ。
仕事量は増えたけれど、頼りにされるのは嬉しかった。
「坂井くんがいて助かったよ」
森課長にそう言われて、わたしも満更でもない。
恋に仕事に、充実した日々が続いていた。