素顔のマリィ

彼女の話はちょっとした衝撃だった。


流加が企画展の優秀賞を取った時、彼女は入社したての23歳。

初めて任された大仕事で、その時のことは今でも詳細に覚えているのだと彼女は言った。

「あの時会場で、柳くんとあなたを見たの。

二人はとても仲良さ気で、恋人なのかな、と思ったわ。

特にね、彼があなたのことを『マリィ』と呼ぶ声が凄く印象的だった。

そのことをわたし彼に話したのよ」

彼女が彼と呼ぶのは、そう、西園寺要のことだ。

「会場でこっそりね。

そしたら彼、あなたを見るなり凄く驚いて。

それからずっと、気が付けば彼の目はあなたを追っていた。

わたしその時彼に言ったの。

『若い恋人の邪魔をしちゃ駄目よ』ってね」

要がわたしを『マリィ』と呼ぶわけがその時初めて腑に落ちたのだ。

「わたしてっきりあなたと柳くんは恋人同士だと思ってたの。

だから、西園寺くんが無理矢理あなたを横取りしたのかと思って。

でも杞憂だったみたいね」

「西園寺さんは、今も柳流加と連絡を取ってるんですか?」

わたしはずっと聞きたかった最大の疑問を、やっと彼女に投げかけた。
< 153 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop