素顔のマリィ
彼女の話はちょっとした衝撃だった。
流加が企画展の優秀賞を取った時、彼女は入社したての23歳。
初めて任された大仕事で、その時のことは今でも詳細に覚えているのだと彼女は言った。
「あの時会場で、柳くんとあなたを見たの。
二人はとても仲良さ気で、恋人なのかな、と思ったわ。
特にね、彼があなたのことを『マリィ』と呼ぶ声が凄く印象的だった。
そのことをわたし彼に話したのよ」
彼女が彼と呼ぶのは、そう、西園寺要のことだ。
「会場でこっそりね。
そしたら彼、あなたを見るなり凄く驚いて。
それからずっと、気が付けば彼の目はあなたを追っていた。
わたしその時彼に言ったの。
『若い恋人の邪魔をしちゃ駄目よ』ってね」
要がわたしを『マリィ』と呼ぶわけがその時初めて腑に落ちたのだ。
「わたしてっきりあなたと柳くんは恋人同士だと思ってたの。
だから、西園寺くんが無理矢理あなたを横取りしたのかと思って。
でも杞憂だったみたいね」
「西園寺さんは、今も柳流加と連絡を取ってるんですか?」
わたしはずっと聞きたかった最大の疑問を、やっと彼女に投げかけた。