素顔のマリィ


「柳流加は我が社の専属アーティストよ、当たり前でしょ。

そのことは西園寺くんも承知してる筈よ」


その事実を聞いた時の衝撃は、何処か他人事のようで不思議な感覚だった。

なんとなく予想していたような、いなかったような。


彼が必死に隠していたのは、柳流加の居場所だったのだ。

彼に代わってわたしのことを『マリィ』と呼び、わたしを抱いて、わたしを引きとめようとした。


いや、彼に抱かれたのはわたしの意志だ。

それに彼は隠していたわけではなく、わたしに敢えて知らせなかっただけとも言える。

彼女の話は、知ろうと思えば知れる話だったろうし、それを隠したところで彼に何の益があるとも思えない。

第一、流加がわたしのことを何とも思っていない以上、今の現実が変わる余地はない。


『知ったからって、現実が変わる訳じゃないのよ』


彼女は正しい。

でも、正しいから受け入れられるわけじゃない。

わたしの中で何かがはじけた。
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