素顔のマリィ
『真理へ
美術手帳編集部勤務、おめでとう!
念願叶ったな、俺も嬉しいぞ。
来年辺り、俺も一次帰国できそうだ。
積もる話もある、再会を楽しみにしてる。裕輔』
社内メールで2年ぶりに山地から連絡が来たのはそれから数日後のことだった。
きっと社内報でわたしの移動を知ったのだろう。
一次帰国っていうことは、またイギリスに戻るのかな?
積もる話って何だろう?
色々聞き返したい事はあったけれど、わたしは一言簡潔に『了解』とだけ返事を返して終わらせた。
書き出したら止まらないのがわかっていたからだ。
山地はきっとわたしよりわたしを分かっている。
今の優柔不断なわたしを見たら、きっと叱り飛ばしてくれることだろう。
「俺のプロポーズは断った癖に、結局マリも肩書きに吊られわけだ、案外普通の女だったんだな」
みたいな。
わたしは要の肩書きに吊られた訳じゃないけど、愛のない結婚を受け入れる条件ではあるかもしれない。
要に絶対の信頼を置けないわたしは、彼の抱く愛情に疑問を持ち始めていたのだけれど。