素顔のマリィ


「マリィ、僕から逃げられると思うなよ」


そう言って立ち上がった要は、わたしの腕を掴むなり、そのまま強引に引き寄せた。

机上の書類が勢いで崩れていくのも意に介せず、彼はわたしを掻き抱いた。

「マリィ、マリィ、マリィ……」

苦しみを滲ませた声は掠れていて、死の淵から這い上がろうとする亡霊のようだ。

「かなめ……、やめて……」

無理矢理口を塞がれ、胸を弄られた。

その手はまるで乳をまさぐる赤子のようで。

わたしを求める要のあまりの必死さに、わたしは抵抗を諦めた。


「マリィ、愛してるんだ。

僕から逃げないで」


役員室のソファで、服を着たまま要に抱かれた。

こんなことさせたのはわたしだ。

わたしが要を貶めた。


ごめんなさい。

ごめんなさい。


わたしは何度も謝っていた。
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