素顔のマリィ

「御伽噺だな」

「ほんと、自分でもそう思うよ。

でも……、忘れられないの……。

彼の匂いも、仕草も、語る口調も、わたしを呼ぶ声も……」

「重症だな」

「誰かに抱かれる度に思ってしまうの、この手が彼の手だったら……って」

「最悪だな」

「最悪だよ」

「結婚は止めろ」

「えっ?」

「男はお前を抱ければそれでも満足できるだろうさ。

けどな、お前の心はどんどん壊れていく。

そんなお前を俺は見てられない」

「ユウスケ?」

「俺だってお前を本気で愛してた。

それなりに傷ついたんだぜ」

「ゴメン」

「マリは正直だからな、装ってるようで結構感情が顔に出る。

なんとなく分かってたよ。

お前には他に好きな奴がいるんだろうなって」

「でも、ちゃんと好きだったよ」

「お前の好きは、犬が好きと変わらねぇよ」

「まさか」

「自覚ねぇなぁ」

山地はそんなわたしを笑い飛ばした。
< 171 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop