素顔のマリィ
「御伽噺だな」
「ほんと、自分でもそう思うよ。
でも……、忘れられないの……。
彼の匂いも、仕草も、語る口調も、わたしを呼ぶ声も……」
「重症だな」
「誰かに抱かれる度に思ってしまうの、この手が彼の手だったら……って」
「最悪だな」
「最悪だよ」
「結婚は止めろ」
「えっ?」
「男はお前を抱ければそれでも満足できるだろうさ。
けどな、お前の心はどんどん壊れていく。
そんなお前を俺は見てられない」
「ユウスケ?」
「俺だってお前を本気で愛してた。
それなりに傷ついたんだぜ」
「ゴメン」
「マリは正直だからな、装ってるようで結構感情が顔に出る。
なんとなく分かってたよ。
お前には他に好きな奴がいるんだろうなって」
「でも、ちゃんと好きだったよ」
「お前の好きは、犬が好きと変わらねぇよ」
「まさか」
「自覚ねぇなぁ」
山地はそんなわたしを笑い飛ばした。