素顔のマリィ
要との生活は、きっと穏やかなものになるだろう。
愛される幸福と安心感を彼は与えてくれるだろう。
でも、それは幻想に過ぎない。
山地の言うように、その幻想がきっとわたしを苦しめる。
「カナメ、わたし達、やっぱり別れた方がいい」
わたしの発した一言が、温かい雰囲気を一瞬で氷つかせた。
わたしは山地にした忘れられない男の話を、要にも聞かせた。
淡々と、冷静に。
山地のように相槌は返ってこなかったけれど、多少の事情を知っている要にしてみれば、目新しい話ではなかたかもしれない。
「だからわたしはあなたとは結婚できません」
きっぱりとそう告げた時、要はやっと口を開いた。
「君の忘れられない人は、柳流加だね」
小さく頷いたわたしを、要はじっと見据えていた。
「彼と君が特別な関係だということは、僕も知っていた。
君の気持ちはわかった。
だけど、柳くんはどうなんだ、彼には君を幸せにするつもりがあるのか?」
「流加のことはわかりません。
もう十数年会っていませんし。
この気持ちはわたしの一方的な片思いなんです。
どうしても忘れられないのはわたしなの」