素顔のマリィ
「坂井」
そう呼び止められて振り向くと、そこに鈴木君がいた。
たまたまその日、わたしは一人で、何の予定もないまま家路を歩いていたのだった。
「こないだ練習見に来てくれてたよな」
走ってわたしに追いついた鈴木君は、わたしの隣りに並んで歩きだした。
「うん」
「嬉しかった」
やっぱり気がついてくれていたんだ、と思うと何だか誇らしかった。
「凄いね。鈴木君、リトルリーグのピッチャーなんだ」
「俺、背が高いし。それに自分で言うのもなんだけど、肩がいいんだ」
「肩がいい?」
「球を投げるのが上手いってことかな。速く、遠くへ投げられる」
「うわっ、それって、凄い自信だね」
「自信がなきゃ、ピッチャーなんてやれないよ」
「そうなんだ。わたしなんて、全然自信ないよ」
「そんなに可愛いのに?」
えっ、とその言葉に驚いたのは褒められたからじゃなく、鈴木君があまりに平然とそんなキザな台詞を言ったからだ。