素顔のマリィ
「そうそう、大事なことを忘れるとこだった」
電話の向こうで山地が言った。
「彼の受賞作『素顔のマリィ』感動だぜ。
色の塊があんなに艶かしく見えたことはないくらい生き生きとしてるんだ。
マリィって誰かな、なんとなくお前に似てる気もしたけど」
手放しで流加の作品を褒めた山地。
勿論、彼が流加とわたしの関係を知る由もない。
添付されていた画像を開くと、画面は青に染まった。
真っ青な空を背景に、少しだけはにかむ様に振り向く少女が描かれていた。
あっ、これわたしだ。
見た瞬間にそう思った。
そこには、川原で風に吹かれ、振り返って流加を見上げるわたしがいた。
流加……
懐かしい想いが込み上げる。
絵の向こうのわたしは、笑って流加を見つめていた。
絵のこちら側では、流加が笑ってわたしを見つめていた筈だ。
あぁ、流加に会える。
そう考えただけで心が震えた。