素顔のマリィ
「お待たせして申し訳ありません」
オリエンタルホテルのロビーで、待ち構えていたわたしとカメラマンは、30分も遅刻してきた柳流加の慌てた様子に度肝を抜かれた。
彼はまるで今起きましたと言わんばかりの、全くもって普段着の着の身着のままの姿で現れたのだ。
もともと癖毛の彼の髪は、長く伸びたゆえに大きく膨らんで。
ボタンを掛け違えたシャツは、何処か薄っすら汚れていた。
息を切らして走って来たのであろう、額には汗が滲んでいる。
「いえ、こちらこそ、お忙しいなかお時間作っていただいて恐縮です」
わたしは動揺を隠そうと、できるだけ礼儀正しく挨拶をした。
「マリィ、だよね」
頭を下げたわたしの上から、懐かしい響きが降ってきた。
「やっぱりマリィだ。僕だよ、ルカ」
「わかってる」
「懐かしいなぁ、でも直ぐにわかったよ。
山地さんから連絡貰って、名前は聞いていたけど、正直半信半疑だった。
まさか、マリィが僕の取材をしてくれるなんてさ」
「ルカ?」
呆気に取られてわたし達の様子をみていたカメラマンも、「なんだ知り合いなのか」と事情を飲み込むと笑って許してくれたのだ。